zshio3721の日記

日本の動物園について勉強しています。アカデミックな価値は皆無です。

「いのちへの礼儀」を読みました

読んだんです。

文芸評論家・社会運動家生田武志氏の著書です(以下、本書)。とにかく論点が豊富で、「人間と動物の関係に関することはおよそ全て調べて書いてやろう」という気概が見えるほどです。自分としてもメンションしたい部分が多くあり、かなり時間をかけないと批判的に体系化しきれません。本書は19年2月に発刊されており、本書に含まれる情報が比較的新しいことも魅力の一つかと思っているので、新鮮さを失わないうちにブログに取り上げる目的で、以下、ブレットスタイルでファクトを整理し、可能な範囲でコメントする方式を取りたいと思います。

 

・始めに、自分の備忘録のために、本書に関するインタビュー記事のリンクを貼っておきます。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2019051902000194.html

・本書は、大まかには、前後編+「間奏」の三部構成。副題「国家・資本・家族の変容と動物たち」については、ほとんど前編で触れられている。つまり、本書のエッセンスはほとんど前編で語り切られている(と私は感じた)ので、忙しい方は前編だけでもご覧になってみては。

・イルカ/クジラ漁問題について、過去の自分の認識を改めなくてはならなかった箇所があるので、自分の記事を引用しつつ触れます。

 

zshio3721.hatenablog.com

 ・この記事での僕の結論は、言ってしまえば「和歌山のクジラ漁については、単なる漁ではなく、地場の人々の生活に深く根差した文化であるので、外国の反捕鯨団体がとやかく言う義理はないだろう」というものでした(それが明示的にわかる文章となっているわけではないけど…)。

・あ、もう一つ、「イルカ/クジラが人間と同じように痛みを感じるという主張の根拠や、イルカ/クジラが痛みを感じることと漁をやめることの論理的な繋がりについては、WAZA(世界動物園水族館協会)に議論の準備はないだろう」というのも、結論というか、ぼくの主張でした。

・ところが本書では…とそれに対する反論を書く前に、恥ずかしながら「太地町の漁がなぜとくに残酷とされたのか」についてはっきりと知らなかったので、本書を参考に簡単に書いておきます。一言でいうと、「イルカ/クジラを浅瀬に追い込んで岩や海岸に激突させる『追い込み漁』を行っているから」です。この漁法では、岩に激突したイルカが45分以上も苦しむ例もあったとのこと。この点、C・W・ニコルによれば、通常のアザラシ、クジラ、セイウチ漁では、銛で獲物を捕らえた後、頭を銛で突くなどして短時間で絶命させるのが常識とされています。なお、1972年から始まったこの追い込み漁については、太地町の漁協組合も反省し、2008年1月以降、獲物の延髄をナイフで切断する方法に改めたことで、捕殺時間を95%程度、削減したとのこと。

・さて、自分の認識を改めるところに戻ります。まず、クジラ漁は文化だから他人にとやかく言われる筋合いはないという主張に関しては、WAZAも(というか、本書ではシーシェパード)百も承知であるという点です。シンガーやレーガンを起点に1970年代から議論が展開されてきた、「動物の福祉」「動物の解放」についての世界的な潮流に鑑みれば、人類がここ数千年の間に確立してきた肉食文化や毛皮等を用いた装飾の文化そのものがチャレンジを受けているわけであって、その文脈でクジラ漁も批判を受けているのはむしろ当然だということ。事実、「動物の福祉・解放」運動の影響を受けて、世界中で多くの人が各種のベジタリアンになっているわけで、まさに文化、つまり人の生き様が変化・変質するところまで来ている。そうした中にあって、漁法も含めて、太地町の人達が頑として変わらない、日本の捕鯨産業が変わらないことに対して、海外の活動家たちは不思議で仕方ないのでしょう。

・あとですね、自分でも文化とはいいましたが、意外とその歴史は浅いという点についても認識を改める必要がありました。別に、歴史が浅いから文化として認識できないとか、そういう話はしてません。ただ、自分の史実認識に不足があったことを認めているだけです。

・まず、鯨食自体は、縄文時代からみられたものですが、人口に膾炙するものであったのは、第二次世界大戦後のわずかな期間だけである、という点です。著者は、鯨肉の消費量がこれまでいかに少なくあり続けたかということと、日本人はむしろ犬の肉を食べていた期間/頻度の方が長い/高いという論拠を持ち出して、「鯨食のみを持って捕鯨文化を語るならば、犬食についても語らなくてはならないだろう」と主張します。確かに、さっきも書きましたけど、追い込み漁そのものも1970年代から始まったものなんですね。

・もう一つの論点である、動物の「痛み」「苦しみ」については、また日を改めて追記します。

・余談ですけど、この本を読んでいる間、これまで自分がテキストとして読み込んだBergerや、趣味で読んでいた佐々木芽生の「おクジラさま ふたつの正義の物語」、また直接お会いしてお話する機会に恵まれた川端裕人氏の著書が引用されていて、これまでの勉強が生き生きと頭に蘇りました。やっぱり、勉強は楽しいですね。

・あ、もちろん本書では、動物園に関する考察も、まるまる一章分くらい割かれていました。これについても絶対に記事にしたいと思っています。